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熊本家庭裁判所玉名支部 昭和42年(家)220号 命令 1967年12月01日

申立人 館野スミ子(仮名)

相手方 館野倫次(仮名)

主文

相手方は申立人に対し、昭和四二年一二月以降本審判確定まで、申立人および長男一美の生活費として月額金三万五、〇〇〇円宛を毎月三〇日限り(ただし昭和四二年一二月は同月一〇日限り)申立人住所に持参もしくは送金して支払うこと。

理由

本件は申立人より相手方に対する昭和四二年(家イ)第八五号夫婦の同居並に協力扶助調停申立事件として、同年八月一七日当庁に係属し、その後同年九月二〇日から同年一一月一五日まで四回に亘り調停手続が行なわれたが、相手方が調停に応ずる意思がないため、同年一一月一五日右調停は不成立となり審判手続に移行したものであるところ、右調停の内容経過等から窺われる事件の実情は概略次のとおりである。すなわち申立人と相手方は適法に婚姻した夫婦で、その間には昭和三二年六月一〇日出生した一児(長男一美)も存するところ、相手方は昭和三八年頃申立人外の女性と親しくなつたこと等から夫婦の愛情にひびが入り、次第に疎隔の溝を深くし、その後相手方は申立人に対し離婚を迫り、昭和四一年二月には申立人を相手として離婚の調停を申立てるに至つた。

しかし申立人が終始離婚に反対したため右調停は同年七月不調に終つた。(なお右調停は当時申立人等が○○市に居住しておつたため同地管轄の水戸家庭裁判所において行なわれた。)

しかし、相手方はその後も申立人との離婚の意思を飜えさず、○○市に転住後の同四二年五月下旬からは申立人および長男を相手方の勤務する○○保険相互会社○○支部の代用社宅に置いた儘他に別居し爾後同年六、七の両月に申立人母子の生活費として各金一万五、〇〇〇円を送つて来ただけであるため、申立人はそれ迄の手持金その他で当座を凌いで来たが、現在無職無収入で、今後相手方より相当額の扶養料を受けなければ母子両名が生活に困窮する状態にある。

以上のとおり窺われ、なお右扶養を要する生活費の内容、金額等については、申立人は月額三万五、〇〇〇円を必要とする旨、また相手方は月額一万五、〇〇〇円で足る旨それぞれ強く主張するところ、いずれも右主張を裏付けるに足る具体的な資料がなく、結局右生活費の額を判断するに由ないのであるが、右のような申立人母子の現況からして審判確定前に臨時暫定的に右扶養の額を定める緊急の必要があるので、当裁判所は次善の方法として合理的な統計上の基準に基づき右生活費を推算するを相当と考え、別紙のような労働科学研究所編纂に係る「綜合消費単位」表に準拠して申立人母子および相手方の消費単位指数を出し、これと、申立人母子および相手方を構成員とする生活単位における総収入額とをにらみ合わせて各人の基準生活費を算定することにする。

そうすると、まず右消費単位表により、申立人は労働に従事しない六〇歳未満の主婦として右消費単位指数は八〇、長男一美は小学校四年生として同指数は六〇、相手方は別居加算三〇を含む六〇歳未満の中等作業に従事する既婚男子として右指数は一三五とみるのが相当である。

しかして○○保険相互会社○○支部の回答書によると、相手方は同会社から諸税を控除して年間平均月額一三万一、二六一円の給与を受けていることが認められ、申立人は前記のように無収入であるから、申立人母子および相手方を構成員とする生活単位における月間総収入額は右一三万一、二六一円であるといわなければならない。

よつてこれを前記各人別の消費単位指数によつて按分すると、

申立人の基準生活費は 131,261円×80/(135+80+60) = 38,185円

長男一美の基準生活費は 131,261円×60/(135+80+60) = 28,639円

相手方の基準生活費は 131,261円×135/(135+80+60) = 64,437円

ということになる。

そうすると、上記算定による、申立人母子の基準生活費の合計は六万六、八二四円となることが右計数上明らかである。

右金額は○○市における家庭の主婦および小学校四年生の男児各一名の月額生活費としては相当高額なものというべきであるが、夫の妻子に対する扶養義務は、いわゆる生活保持義務に属し、義務者が配偶者や子に自分と同等の生活をさせなければならないものであつて、一般親族扶養のように要扶養者の最低限度の生活扶助を内容とするものとは本質的に異なるのであるから、義務者に高額の所得(収入)がある以上、右結論は原則的にこれを認めざるを得ないものと考える。

尤も所得ないし収入は、その総額がすべて生活費となるべき性質のものではなく、そのうちには貯蓄引当金や労働再生産に要する費用、特別交際費その他資本的支出等、該生活単位の共益的ないし基金的性質の用途に充てられねばならないものもあつて、これらは狭義の生活費の中には入らず、したがつて収入額に対する消費単位指数による按分計算の前に右基本額から優先控除されるべきものであるから、斯かる控除費目同金額について具体的な資料の顕出があるときは、前記基準生活費は相対的に減縮を免がれないものであることは勿論である。

ところで、本件において、申立人は同人等母子の生活費として前記のように月額三万五、〇〇〇円に限つてこれを請求しておるところ、右金額は前記統計上の合理的な基準生活費の範囲内に属し、もとより妥当な金額と考えられるので、当裁判所も審判確定迄の臨時処分として、相手方に、申立人に対し、本月以降毎月三〇日限り(ただし本月は一〇日限り)金三万五、〇〇〇円宛を申立人住所に持参もしくは送金して支払わせることを相当と認め、家事審判規則第四六条第四五条第九五条第一項に則り、主文のように命令する。

(家事審判官 石川晴雄)

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